このページでは,精神科医の上島国利先生がまとめてらっしゃる医学書
   『気分障害 治療ガイドライン』を参考に,お医者さんの目線でうつ病診断のポイントを紹介します.
   
   専門的な内容ですが,うつ病症状を自己診断するのにも的確な資料です.


 

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うつ病診断 大うつ病エピソード

 うつ病は気分障害のうち単極性うつ病と双極性うつ病(躁うつ病)と区別しています.ここでは,躁うつ病でなく,うつ病にあたる単極性うつ病を中心に説明します.

 うつ病(気分障害)の診断のためには,疾患の診断の構成部分として,『気分エピソード』が決められています.うつ病の診断の際にも,『大うつ病エピソード』の有無があるかをチェックします.



大うつ病エピソード
 基本的特徴は,抑うつ気分または,ほとんど全ての活動における興味,または喜びの喪失のいずれかが,2週間以上続くことにあります.ちなみに筆者が大うつ病と診断された時点の症状は,以下のAの全てが当てはまりました...

   (米国精神医学会(高橋三郎,大野裕,染矢俊幸訳):DSM−?−TR精神疾患の診断・統計マニュアル新訂版 医学書院,2004より)



 A 以下の症状のうち5つ以上が2週間存在し,病前の機能からの変化を起こしている.
   これらの症状のうち,少なくとも1つは,(1)抑うつ気分あるいは(2)興味または喜びの喪失である.
   (※明らかに,一般身体疾患,または気分に一致しない妄想または幻覚による症状は含まない)

 (1)その人自身の言明(悲しみ,空虚感を感じる)か,他者の観察(涙を流しているように見える)によって示される.
    ほとんど1日中,毎日の抑うつ気分が見られる(小児・青年では,苛立ち気分もありうる).
 (2)ほとんど1日中,毎日の全て,またはほとんど全ての活動における興味,喜びの著しい減退(本人の言明,他者の観察)
 (3)食事療法をしていないのに,著しい体重減少,増加,またはほぼ毎日の食欲の減退・増加.
 (4)ほとんど毎日の不眠,または睡眠過多.
 (5)ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または静止(他者の観察可能)
    (ただ単に落ち着きがないとか,のろくなったという主観的感覚でないもの.)
 (6)ほとんど毎日の易疲労性.気力の減退.
 (7)ほとんど毎日の無価値感,過剰であるか不適切な罪責感.
    (妄想の場合もある.ただ単に自分を責め,病気になったことに対する罪の意識ではない)
 (8)思考力や集中力の減退.または決断困難がほとんど毎日みられる(本人の言明,他人の観察可能).
 (9)死についての反復思考(死の恐怖だけでない),希死念慮,自殺企図,またははっきりとした自殺計画.

 B 症状は混合性エピソードの基準を満たさない.

 C 症状は,臨床的に著しい苦痛,または社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている.

 D 症状は,物質(乱用薬物,投薬)の直接的な生理学的作用,または一般身体疾患(甲状腺機能低下症)によるものではない.

 E 症状は,死別反応でうまく説明されない.すなわち愛する者を失った後,症状が2ヶ月を越えて続くか,
   または著明な機能不全,無価値感への病的なとらわれ,自殺念慮,精神病性の症状,
   精神運動静止があることで特徴づけられる.



 もし上記の大うつ病エピソードに合致する項目がある場合,また前ページで示した身体症状・精神面での症状が顕著な場合,心療内科・精神科の病院・クリニックで相談されることをお勧めします.専門医が判断して,問題なければただの考え過ぎで済みますが,もしも心の負担が限界を超えているのであれば,早期発見・早期治療によって回復ペースも速くなります.うつ病の懸念が強い場合,健康診断のつもりでも構いません,気軽に相談に行ってみましょう.


 ※本人でなく,家族や友人がうつ病の可能性があり,心配だから医者に診てもらいたいとお考えの方・・・本人は自分が鬱かどうか,病気かどうか信じたくないという不安もあると思います.でも症状が深刻化していくようなら,家族や友人の付き添いで受診は可能です.本人が気にする場合は,精神科でなく『内科・心療内科』両方扱っている病院を探されるとベターです.「体調が悪そうだし,辛そうだから健康診断に行ってみよう」と誘ってみるのもいいと思います.







DSM-5 ガイドブック: 診断基準を使いこなすための指針

精神疾患の世界的な診断基準DSM-5の米国精神医学会オフィシャルシリーズの1冊
うつ病(気分障害)をはじめとする精神疾患の診断基準ガイド.このサイトではまだDSM−?−TRの時点の大うつ病エピソードを掲載していますが,実際は時をかけて診断ガイドも進歩しています.